青年たちの聖書研究~第40回『ゼカリヤ書』
- 明裕 橘内
- 7月24日
- 読了時間: 13分
第40回 聖書研究会「ゼカリヤ書」
【ゼカリヤ書について】
◎旧約聖書は大きく3つの部に分けられる
「歴史」の部 (創世記~エステル記)
「文学」の部 (ヨブ記~雅歌)
「預言」の部 (イザヤ書~マラキ書)
大預言書は、イザヤ書、エレミヤ書、哀歌、エゼキエル書、ダニエル書
十二の小預言の最後のハガイ書、ゼカリヤ書、マラキ書は、捕囚後の民に語られている。
「ゼカリヤ書」の歴史的背景を理解するために、エズラ記が参考となる。
・エズラ記5:1~2
預言者ハガイとイドの子ゼカリヤが、ユダとエルサレムにいるユダの人々に向かってその保護者であるイスラエルの神の名によって預言したので、
シェアルティエルの子ゼルバベルとヨツァダクの子イエシュアは立ち上がって、エルサレムの神殿建築を再開した。神の預言者たちも彼らと共にいて、助けてくれた。
・エズラ記6: 14~16
ユダの長老たちは、預言者ハガイとイドの子ゼカリヤの預言に促されて順調に建築を進めていたが、イスラエルの神の命令と、ペルシアの王キュロス、ダレイオス、アルタクセルクセスの命令によって建築を完了した。
この神殿は、ダレイオス王の治世第六年(紀元前515年)のアダルの月の二十三日に完成した。
イスラエルの人々、祭司、レビ人、残りの捕囚の子らは、喜び祝いつつその神殿の奉献を行った。
◎「ゼカリヤ書」は、帰還した人々が神殿の基礎は据えたが、工事は中断されたままになっていたので、預言者ゼカリヤが預言者ハガイと共にエルサレムの人々を励まして、神殿再建の事業を完成させようとして書かれた。そして、捕囚後の人々が考えていた問題にも取り組んでいる。すなわち、南王国ユダはペルシア帝国の小さな属州でしかなく、どのような政治的指導者を望めば良いのか。また、ダビデ王の子孫がイスラエルを治めるという神様の約束はどうなるのか。また、神様はイスラエルを守ってくれるのか。そして、将来に何が起こるのか、などである。
◎「ゼカリヤ書」ではダビデ王の子孫であるゼルバベルがユダの総督(政治的指導者)となり、ヨシュアが大祭司となると語られている。また、将来、ユダとエルサレムが敵に攻撃をされるが、神様が現れて民を救うとも語られている。人々は神様に立ち帰り、神様は人々を赦す。命の水がエルサレムから湧き出て、地上のすべての国民が神様を礼拝するようになる、エルサレムは安住の地となる(14:8~11)と示されている。
◎神殿完成、奉献への道のりを西暦の年月でたどってみると、
紀元前538年 捕囚からエルサレムに帰還 エズラ記1:1~3
紀元前537年 神殿の基礎工事開始 エズラ記3:8
紀元前520年 8月29日 ハガイの第1のメッセージ ハガイ書1:1~11
紀元前520年 9月21日 神殿再建工事再開 ハガイ書1:14~15
紀元前520年 10月17日 ハガイの第2のメッセージ ハガイ書2:1~9
紀元前520年 10月10,11月 ゼカリヤの宣教の開始 ゼカリヤ書1:1~6
紀元前520年 10月17日 ハガイの第3のメッセージ ハガイ書2:10~23
紀元前519年 2月15日 ゼカリヤの8つの幻 ゼカリヤ書1:7~6:8
紀元前519年 2月以降 ヨシュアの戴冠 ゼカリヤ書6:9~6:15
紀元前518年1 2月7日 悔い改めの勧め、祝福の約束 ゼカリヤ書7~8章
紀元前515年 神殿の完成、奉献 エズラ記6:14~16
紀元前480年以降 ゼカリヤの最後の預言 ゼカリヤ書9~14章
◎「ハガイ書」は、日付順に記され、単刀直入であったが、
「ゼカリヤ書」8章まではメシア的(来たるべきメシアを示しているということ)であり、
9章からは黙示的(内容などを明示せず、暗黙のうちにそれと気付かせるような方法で示すこと)、終末論的(世界の終わりに関する教え)であると言われる。
◎「ゼカリヤ書」は幻、託宣、黙示などが見られる。黙示文学は悪を滅ぼし、新しい世界が来るという「終わりの時」に焦点を当てたものが多く、動物や天使、悪霊、また数字などを使った幻と象徴的な描写が含まれている。このような黙示文学は敵に対する最終的な勝利を約束して、圧制に苦しむ人々を慰めるために書かれた。「ヨハネの黙示録」には「ゼカリヤ書」と同様に、神様がすべての敵に勝利し、新しいエルサレムを創造して、すべての忠実な者たちを祝福し、新しい命を与えるという幻が記されている。「ヨハネの黙示録」は、「ゼカリヤ書」からの引用が多い。
◎ゼカリヤとは「主は覚えておられる」という意味で、ゼカリヤはバビロニアで生まれ、紀元前538年ゼルバベルとヨシュアの指導のもと、ユダに帰還した民の一人と考えられる。ゼカリヤの父祖イドは帰還した祭司の一人として名前が記されている(ネヘミヤ12:4)ので、ゼカリヤも祭司であったと考えられる。
◎ゼカリヤはハガイと同時代の人であるが、高齢のハガイと若者ゼカリヤが民を神殿完成へと導いた。ゼカリヤの宣教の活動は若かった頃に始められ、後年まで活動を続けられた。
【ゼカリヤ書の内容】
1~8章 ダレイオス王の時代にゼカリヤのイスラエルの民への語りかけ
1:1~6 紀元前520年のゼカリヤへの主の言葉
あなたは彼らに言いなさい。万軍の主はこう言われる。わたしに立ち帰れ、と万軍の主は言われる。そうすれば、わたしもあなたたちのもとに/立ち帰る、と万軍の主は言われる。(1:3)
*八つの幻
①1:7~17 ミルトスの木の間にいる馬上の人
万軍の主はこう言われる。わたしの町々は再び恵みで溢れ/主はシオンを再び慰め/エルサレムを再び選ばれる。(1:17)
②2:1~4 4つの角と4人の鉄工
角は力を象徴し、4は東西南北、すなわち全方向を示す。すなわち、4つの角はダビデ王の時代(紀元前1000年頃)以降、北王国イスラエルと南王国ユダを脅かした敵であるエジプト、アッシリア、バビロン、メディア、ペルシアなどの強国を表している。そして、4人の鉄工は敵を切り倒す神の力を表している。
③2:5~17 測り縄を持つみ使い
町を測量するのは、城壁を建てて町を守るためであった。主を信じる人が増えるが、主は守ってくださることを表している。
④3:1~10 大祭司ヨシュアの衣の清め、そして任命
主は若枝であるわが僕(しもべ)を来させる(8)と記されている。「若枝」は神様が支配者として選んだことを示すとされている。
⑤4:1~14 金の燭台と2本のオリーブの木
金の燭台は「ゼルバベルに向けて、武力によらず、権力によらず/ただわが霊によって、万軍の主なる神は言われる」を示し、2本のオリーブの木は油注がれた大祭司ヨシュアと総督ゼルバベルを示す
⑥5:1~4 飛んで来る巻物
長さ9メートル幅4.5メートルの巻物が飛んで来る。巻物には盗人(ぬすびと)と偽って誓う者の語ったことが記されているが、そのような者たちは一掃され、滅ぼし尽くされる。
⑦5:5~11 エファ升の中の女性
エファ升は穀物などの容量を量る升。1エファは23リットル。升の中の女性は南王国ユダの民の罪(邪悪そのもの5:8)を表している。彼女はユダの人々が罪のために送られたバビロンに連れて行かれる。
⑧6:1~8 4両の戦車
北の国(6:8)はバビロンを示すので、バビロンが神様の裁きを受けている。具体的にはダリヨス王即位後、多くの反乱が起こったことを示すと考えられている。「バビロン」は「バベル」という言葉に由来し、「バベル」は混乱すると言う意味である。イスラエルの民はバビロンに混乱させられてきた歴史がある【バビロン捕囚】。バビロンはペルシアのキュロス王によって滅ぼされ、キュロス王によって、捕囚から解放された(歴代誌下36:22、エズラ記1:1~3)
6:9~15 戴冠の宣言
主の言葉がゼカリヤに臨んだ。銀と金を受け取り、冠を作り、大祭司ヨシュアの頭にのせて、宣言しなさい。「これが『若枝』という名の人である。彼が神殿を建て直し、王座に座して治める。」『若枝』は神がヨシュアを選んで支配者としたことを表していると、考えられる。
7:1~14 エルサレムの荒廃
2年後、祭司たちと預言者たちは質問をされた「神殿が破壊されて70年間、5月と7月に断食し嘆き悲しんできたが、続けるべきでしょうか」万軍の主なる神は言われた「断食は自分のためにしてきたのではないか。貧しい者らに配慮してこなかった。預言者たちの警告も聞こうとはしなかったので、主の怒りは激しく燃えた。民は捕囚となり、地は荒れ果てた。
8:1~23 回復の約束
主は言われた「ユダの家よ、イスラエルの家よ、私が救い出すので、あなたたちは祝福となる(13)。断食はユダの家が喜び祝う楽しい祝祭の時になる(19)。多くの民、異邦人も来て言う「神があなたたちと共におられると聞いたから、共に行かせてほしい」(23)
9~14章 イスラエルの将来を告げる幻
9章 託宣(神からの言葉):主の救い
イスラエルの隣国は滅ぼされ、イスラエルは守られる(1~8)。ロバに乗っておいでになる(9~10)【マタイ21:4~5に引用されている】万軍の主なる神は諸外国から守り、救い出し、養ってくださる(11~17)。
10章 託宣:主によって力が与えられる
主に雨を求めよ、テラフィム(偶像の一種)は空虚なことを語るので、その慰めは空しい(1~3)。【紀元前722年に北大国イスラエルがアッシリアに、紀元前586年に南王国ユダがバビロンに滅ぼされた後、民はアッシリアやバビロンまたエジプトなどへも散らされていった。】主はユダの家に力を与え、ヨセフの家を救う。彼らの祈りに答えるために(10:6)
11章 悪い羊飼い
近隣諸国は滅びる(1~3)。主なる神がゼカリヤに言われたように、屠るための羊を買い、「好意」と「一致」と名付けて羊を飼った(7)。ゼカリヤは「好意」という杖を折って、諸国の民すべてと結んだ契約を無効とした(10)。「一致」という杖を折り、ユダとイスラエルの兄弟の契りを無効にした(14)。羊を見捨てる無用の羊飼いたちは災いだ(17)。
*イエス様が「良い羊飼い」(ヨハネ10:11~18)と記されている背後には、「悪い羊飼い」つまり、悪い指導者たちに、長期間、導かれていたことを示している。
12章 エルサレムの存続
エルサレムは、今そこにある場所、エルサレムになおとどまり続ける(6)。その日、主はエルサレムを攻撃してくるあらゆる国を必ず滅ぼす。主はダビデの家とエルサレムの住民に、憐れみと祈りの霊を注ぐ(9~10)。彼らが、自らが刺し貫いた者である主を見つめ、独り子を失ったように嘆き悲しむ(10~14)
*「わたし」(9~14)は新約聖書におけるイエス様であり、受難と死の成就であると考えられる
13章 罪と汚れを洗い清める泉
その日、ダビデの家とエルサレムの住民のために、罪と汚れを洗い清める一つの泉が開かれる。
その日が来る、と万軍の主は言われる。わたしは数々の偶像の名をこの地から取り除く。その名が再び唱えられることはない。また預言者たちをも、汚れた霊をも、わたしはこの地から追い払う(1~2)。
民の3分の2は死に絶え、3分の1が残り、彼らを試す。彼らがわが名を呼べば、主は「彼こそわたしの民」と呼び、彼は「主こそわたしの神」と答えるであろう(8~9)
14章 エルサレムの敗北から主に聖別されたもの祝福へ
主の日にエルサレムは陥落するので、逃げなさい。(1~5)
ただひとつの日が来る。その日は、主のみに知られている。その日、エルサレムから命の水が湧き出でて、夏も冬も流れ続ける。主は地上をすべて治める王となられる。破滅が再び臨むことはなく、エルサレムは安住の地となる。諸国の民がエルサレムに兵を進めても守られる。周囲の国の財産がエルサレムに集められる。エルサレムを攻めたあらゆる国から、残りの者が皆、年ごとに上って来て、万軍の主なる王を礼拝し、仮庵祭を祝う。(7~19)
・仮庵祭では、秋の収穫の終わりに、神様に感謝し、祭りの期間は木の枝で作った仮小屋に住んだ。
その日には、あらゆるものが「主に聖別されたもの」となる(20)
・献げ物をささげるための特別な鍋が売られていた。しかし神様がエルサレム全体を聖別すれば(13:9)、すべての鍋が聖い物となり、献げ物にも使うことができるようになる。そして、すべての民が「聖なる民」となり、神の祭司として仕えることになる。
その日には万軍の主の神殿にはもはや商人はいなくなる(21)
・「商人」は直訳ではカナン人。つまり、損得勘定で動く人々や異邦の神々を信じる人々が、主の神殿にはいなくなるという、理想的な礼拝者の描写で、ゼカリヤ書は終わっている。
【注目点】
「ゼカリヤ書」はメシア的(来るべきメシアを示している)と言われる根拠として、
*キリストに関するゼカリヤ書からの引用
【ゼカリヤ9:9】
娘シオンよ、大いに踊れ。娘エルサレムよ、歓呼の声をあげよ。見よ、あなたの王が来る。彼は神に従い、勝利を与えられた者/高ぶることなく、ろばに乗って来る/雌ろばの子であるろばに乗って。
・マタイ21:5
「シオンの娘に告げよ。『見よ、お前の王がお前のところにおいでになる、/柔和な方で、ろばに乗り、/荷を負うろばの子、子ろばに乗って。』」
・ヨハネ12:14~16
イエスはろばの子を見つけて、お乗りになった。次のように書いてあるとおりである。
「シオンの娘よ、恐れるな。見よ、お前の王がおいでになる、/ろばの子に乗って。」
弟子たちは最初これらのことが分からなかったが、イエスが栄光を受けられたとき、それがイエスについて書かれたものであり、人々がそのとおりにイエスにしたということを思い出した。
【ゼカリヤ11:12~13】
わたしは彼らに言った。「もし、お前たちの目に良しとするなら、わたしに賃金を支払え。そうでなければ、支払わなくてもよい。」彼らは銀三十シェケルを量り、わたしに賃金としてくれた。
主はわたしに言われた。「それを鋳物師に投げ与えよ。わたしが彼らによって値をつけられた見事な金額を。」わたしはその銀三十シェケルを取って、主の神殿で鋳物師に投げ与えた。
・マタイ27:9~10
こうして、預言者エレミヤを通して言われていたことが実現した。「彼らは銀貨三十枚を取った。それは、値踏みされた者、すなわち、イスラエルの子らが値踏みした者の価である。
主がわたしにお命じになったように、彼らはこの金で陶器職人の畑を買い取った。」
【ゼカリヤ13:7】
剣よ、起きよ、わたしの羊飼いに立ち向かえ/わたしの同僚であった男に立ち向かえと
万軍の主は言われる。羊飼いを撃て、羊の群れは散らされるがよい。
・マタイ26:31
そのとき、イエスは弟子たちに言われた。「今夜、あなたがたは皆わたしにつまずく。『わたしは羊飼いを打つ。すると、羊の群れは散ってしまう』と書いてあるからだ。
・マルコ14:27
イエスは弟子たちに言われた。「あなたがたは皆わたしにつまずく。『わたしは羊飼いを打つ。すると、羊は散ってしまう』/と書いてあるからだ。
【ゼカリヤ12:10】
わたしはダビデの家とエルサレムの住民に、憐れみと祈りの霊を注ぐ。彼らは、彼ら自らが刺し貫いた者であるわたしを見つめ、独り子を失ったように嘆き、初子の死を悲しむように悲しむ。
・ヨハネ19:37
また、聖書の別の所に、「彼らは、自分たちの突き刺した者を見る」とも書いてある。
【ゼカリヤ書14:8】 エルサレムから命の水のが湧き出る
・ヨハネの黙示録22:1~2 命の水の川が流れている
【質疑応答】
①4:14 2人の油注がれた人たちとは誰のことをさしているのか。
大祭司ヨシュアとゼルバベルと考えられます。
ゼルバベルは武力や権力を持つ(4:6)王のような存在であった。
油注がれた者とはメシアであるから、イエス様は大祭司であり、王のような存在であることが示されていると考えられます。
②キュロス王が南王国ユダの民に帰還するよう命令を出したが、北王国イスラエルに住んでいた民はどうなっていたのか。ユダに住んでいた民と一緒にユダに帰還したのだろうか。
北王国イスラエルの民と南王国ユダの民とは、一緒に帰還したとは考えられないでしょう。
北王国イスラエルは紀元前722年にアッシリアにより滅ぼされ、10部族のうち指導者層は虜囚としてアッシリアに連行された【アッシリア捕囚】。サルゴン王の碑文によると虜囚の数は2万7290人で、北王国滅亡直前の段階の北王国の全人口の約20分の1程度と推定されているが、その行方が文書に残されていないため、南王国の二部族(ユダ族とベニヤミン族)によって「失われた十部族」と呼ばれた。広義には捕囚とならなかった北王国の住民を含んでいるとも考えられる。捕囚とならなかった旧北王国の住民は、統制を失って他の周辺諸民族の中に埋没し、次第に北王国イスラエルの十部族としてのアイデンティティを失ったといわれ、周辺の異民族や、アッシリアによって他地域から逆に旧北王国に強制移住させられてきた異民族と結婚し、混血となることもあった。北王国の首都サマリアではサマリア人として、ユダヤ人と異なる文化とアイデンティティを保ち続けた。
南王国ユダは、紀元前586年に新バビロニアに滅ぼされた。指導者層はバビロンなどへ連行され虜囚となったが【バビロン捕囚】、宗教的な繋がりを強め、失ったエルサレムの町と神殿の代わりに、律法を心のよりどころとし、宗教的・文化的なアイデンティティを確保するために異民族との結婚を嫌い、純血至上主義となった。
【感想】
・ゼカリヤ書は、読んでいると、幻など不思議な内容が多く、他の預言書と比べても独特の雰囲気があった。
・ゼカリヤ書が、ハガイ書と関連があるということは、それ単独で読んでいるとあまりピンとこないが、続けて読むことで、2つの書が関連していることがわかり、その上で、違いも理解できた。

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